昼の月

両国橋を東から西へ渡る若侍があった。長州海部郡佐伯毛利安房守家中、根来兵三郎である。代々江戸屋敷御留居役を勤める小藩の出ながら、江戸流の剣を習って諸先輩に伍したいと熱い志を抱いている。兵三郎が門を叩いたのは、伊庭軍兵衛心形刀流道場だった。軍兵衛はやがて幕府の警護として特別隊を編成し、兵三郎もその一員に加わるが、時代は大きなうねりをみせて彼らを呑み込んでいく。傑作長篇時代小説。

久しぶりに子母澤寛を読む。 元々はこの文体が苦手だったのですけど、他のいろいろな時代物を読んでみてまた帰ってきて、なんというか「すごく時代物っぽい」というか、あぁ時代物を読んでるんだなぁっていう感じがして、また、意外に読みやすいのにも気づいて。

おなじみの幕末もの、本所もので、まさしく子母澤寛の独壇場。 幕末で、江戸者を描くとなると、どうしても哀れというか、物悲しい結末にならざるを得ないようなところですけど、からっとした江戸っ子肌ですんで、なんとなくまぁなんとなくまぁになるんで、読了感も悪くはならないんですよね。

ちなみに私が持ってるのは角川文庫のそれなんですが、こうなっている。

桜井金之助は、本所割下水に住む御家人である。すりや芸者と顔馴染みの市井の徒ながら、剣は心形刀流の使い手。その技を認められ、将軍御前で槍の高橋伊勢守と五分に立合い、講武所教授方を命じられるが、時の流れは徳川家凋落の兆を急速に露わにして…。著者独壇場の幕末秘話。敗戦の江戸ッ子、”本所もん”の真骨頂を描く。

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