スローなブギにしてくれ

片岡義男の同名の小説を藤田敏八監督が映画化した青春映画のデジタル・リマスター版。ふとしたことからめぐり合ったふたりの男とひとりの女の奇妙な生活を描く。白いムスタングから放り出されたさち乃と彼女を助けたゴローは一緒に暮らし始めるが…。

藤田敏八の映画はやるせない度が高い。 観終わっても気分がぐじゅぐじゅのままである事が多い。 空気のような・・・いや空気ほど「なくてはならない」感はなくて、こう・・・不在感に満たされている虚しさが強く感じられるのです。

それはもしかしたら時代性に委ねた面が強いからなのかも知れない。 特にこの映画で見える景色は全てが色褪せて見え、80年代が始まる・・・あのダサい80年代が始まる事を予感させるに十分なほどであります。

この映画で見える浅野温子の若さに特段書く事はなく、「ニカっ」とした笑いは既にこの時点で完成されていた事がわかる程度に記しておくべきかも知れません。 あ、あと、小林綾子が出てるのも、豆知識程度なところ。

それよりなにより、室田日出男を筆頭とした「おっさん連」の脂っこさがいい。

私自身は山崎努が苦手で、私の苦手な「髪の毛ベットリで乱暴でエッチでちょっと頭がおかしいっぽい」山崎努がここではやたらめったら強調されているので逆に清々しいベトベト感なんですけど、室田日出男も負けていない。 クイーンエリザベスなるバーでクイーンエリザベスなウイスキーがぞろりと並んだその前に立ってる様が、軽口を叩くわビールをいそいそ飲むわどちらかと言うと仕事をする気が無いっぽいわで無気力を増長させるも、浅野温子を***した二人組の連れを追いかけて襟首掴んで問いただす(というか脅す)ところはまったくもって室田日出男であります。 もちろん、脂っこい。 ベトベト感たっぷりであります。

また、前半しか出てこないですけど我らが原田芳雄も脂っこい。 この人は問答無用なんですけど、この映画では飄々としすぎてよくわかんない存在感になってしまっているのが面白い。 挙げ句の果てにはジョギング中に死んじゃうとか、よくわかない扱いになってて素晴らしいのです。

映画そのものは後味も印象も全く残らない藤田敏八監督作品らしさ爆発なんですけど、出演者の脂っこさを楽しむにはうってつけなのではないかと思ったのではありました。