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雨の音―子母沢寛幕末維新小説集

delicious はてな この記事をクリップ! | 2008年01月07日21:53 | 編集

雨の音―子母沢寛幕末維新小説集

「只、消え行くのみ──この稿を終わるの日、また窓蕭々雨の音あり」幕末維新の奔流の中で、気概を持ちながらも、時代の波にのみこまれてゆく名もない幕臣達......。作者が出会った夢幻の如き老人が幕臣たちの数奇な運命を語る表題作「雨の音」他、時代を必死に駆け抜けた男たちの生涯を描く七篇。

 一応リンク先をアマゾンにしましたが残念ながら在庫切れで、余程大きな書店で無いと実際在庫が無い文庫本ではありますが、「蝦夷物語」「厚田日記」が収録されているので是が非でも!という気持ちで入手し、読了しました。

上の2話は、子母澤寛の作家活動の原点ともなった祖父の梅谷十次郎(斉藤鉄五郎)の物語。 御家人であった祖父は幕末、彰義隊に参加しその余りにも呆気ない敗北の後、函館戦争を経て北海道の厚田に定住したそうなのですけど、その頃の聞き覚えを作品としたものです。

これらを読みたかった。 子母澤寛の作品を好きになれば好きになる程、その原点に触れたいと思ったんです。

そしてこの文庫本は作品の「並び」が秀逸で、「三味線堀」で幕を開け、語り部の珠玉的作品とも言える「剣客物語」そして名作「蝦夷物語」「厚田日記」を通じ、最後の一文が余りにも「堪らない」作品である「雨の音」で唐突にしかも感動的に幕を閉じます。

全体を通して感じるのが、行間と段落の妙。 前者に関しては解説にもあるように、突然筋が止まり1行空けた後、作者の思いが迸るように噴き上がる絶妙の語り口。 後者においては前者を常に意識したかの様な段下げによる筋のメリハリが、まさしく散文の極致であるかのように読者をどぎまぎとさせ、一気に読ませる事に成功しています。

もう一度読み直してみると、最初の「三味線堀」に違和感を催します。 しかしながらこれは、明らかに「蝦夷物語」「厚田日記」を下敷きとした話の筋道を立てておりまして、読み進めてこれら2作品を読み通した時、何故に「三味線堀」が最初におさめられているのかを納得させるところなのであります。

それにしてもそのほぼ全ての作品が晩年に執筆された事実。 「只、消え行くのみ──この稿を終わるの日、また窓蕭々雨の音あり」という、唐突過ぎるがしかし、何とも言えない残照のようでもあり且つ作品の冒頭に繋がる奇妙な寂寥をば感じさせる「雨の音」というストイックを具現化したようなタイトル。

話の筋に驚く事はあれど、文庫本...いやこの構成そのものに驚く事は稀かと思います。

例の新選組3部作が余りにも有名であり、ままその他にも有名どころはありますが、それらを排した作品群にも注目すべきところはありながら、なかなかに評価されないのは確かに、読む機会が少ないからではないでしょうか。 もっともっと評価...ではなく、文庫本なりなんなりで読者が触れる機会を沢山増やして欲しいと願う作家さんだと私は感じます。 子母澤寛を。




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